本日は以下の項目について記載します。
- 不動産鑑定士試験の効率的な勉強法(TAC全国答練1位を取得した勉強法を解説)
- 試験準備に対する意識
- 各科目(鑑定理論、行政法規、民法、経済学、会計学、演習)ごとの勉強のコツ
今回は、不動産鑑定士試験の受験者の方々、また今後、不動産鑑定士試験の受験をご検討されている方向けに、自身が考える不動産鑑定士試験合格のポイントと、勉強法を記載します。
不動産業界とは?
まず不動産鑑定士が属する、不動産業界の規模から見ていきたいと思います。
不動産は投資市場規模2500兆円であり、日本の年間国家予算約100兆円の20倍超、GDP約500兆円の4~5倍程度ということが分かります。
(引用:国土交通省開示資料)
次に、業界全体の売上規模としては、約46兆円と試算されており、また売上高利益率は全業界で数年連続でトップとなっています。
- 不動産業の法人数約33万社
全産業の1割以上を占め、増加傾向。 - 不動産業界従事者約118万で、全産業約6178万の約2%
新卒の不動産業界就業者数約1万4千人(全体約43万人の約3.2%)で、増加傾向
(※不動産流通推進センター「2019不動産業統計集」より)
従いまして、不動産業界はとても大きな経済的インパクトを持つ業界です。
不動産鑑定士とは?
概要
国土交通省管轄の国家資格であり、弁護士、税理士と並び、文系三大国家資格の一つです。不動産の適正な価値・バリューを算出するプロフェッショナルです。
不動産は国土それ自体でもあり、また日常生活や企業活動に必要不可欠な重要資産です。また、古くから資産運用として投資の対象となっており、その経済的なインパクトは極めて大きいものです。
その不動産関連権利の適正な価値を決めるのが「不動産鑑定士」であり、評価対象は現物の土地・建物に加え、それに付随する権利も(賃借権・地上権・地役権など)も含まれます。
不動産鑑定士 登録者数・登録業者数
登録者数約9500名、登録業者数約3300社(2017年初)
(引用:国土交通省開示資料)
また地方に行けば行くほど、国や地方自治体からの評価依頼割合が高く、公的評価への依存度が高いことが示されます。
不動産鑑定の依頼目的
「売買」の占める割合が最も多く、近年では「証券化」目的も伸びています。
現役不動産鑑定士の年齢層上昇問題
不動産鑑定士業界の抱える問題の一つとして、現役鑑定士の年齢層の上昇が挙げられます。
現状、40歳台が3割弱を占め最大であり、次いで50代、60代となっており、20代、30代の若い世代が少ない状況となっております。
現状が続けば、地方など場所によっては、鑑定士不足が深刻になる地域が出てくることが予想されます。
(引用:国土交通省開示資料)
不動産鑑定士試験 受験者数・合格者数推移
2011年以降、申込者数は逓減傾向にあります。
(引用:国土交通省開示資料)
上述した不動産鑑定士業界の抱える問題を踏まえ、最近では徐々に合格率が増えています。
従いまして、不動産鑑定士業界(特に地方)の人材不足が懸念されており、若い世代で不動産関連ビジネスに興味のある方や、不動産鑑定士試験のチャレンジを考える方にとっては、これまでより合格しやすく、チャンスだと思料します!
鑑定士になるまでの流れ
国土交通省所管の国家資格「不動産鑑定士試験」に合格
試験は、短答式試験と筆記試験でそれぞれ年1回
合格後実務修習を受け、全てのカリキュラムが終了すると「終了考査」を受験
(修習期間は1年コースと2年コースを選べます)
その後、鑑定事務所や独立開業などで鑑定士業務に従事
仕事内容
では、不動産鑑定士の業務内容について見ていきましょう!
鑑定評価業務(独占業務)
地価公示、地価調査
固定資産税評価、相続税路線価評価
Jリートや企業の財務諸表に向けた評価
金融機関の担保評価、破産管財案件等の資産評価
海外不動産評価 etc…
コンサルティング業務
土地の有効活用
売買関連業務
投資信託分野の関連業務 etc…
働き方としては、
企業内鑑定士
不動産関連業務(鑑定会社、不動産会社、金融機関等)
独立開業(鑑定士のみのケースや、他の弁護士、税理士と共同での開業のケースも)
不動産鑑定士業界の今後のトレンド予測
(引用:国土交通省開示資料)
上記は国土交通省が取りまとめた不動産鑑定評価の精緻化に関するアンケート調査です。
金融業界からは、ホテル・ヘルスケア関連
不動産業界からは、中古戸建や空き家関連
国、地方公共団体等の公的機関からは、農地関連
が多く挙げられています。
上記アンケート等も踏まえ、不動産鑑定士業界の今後のトレンドとして、以下に列挙したような項目が考えられます。
拡大し続けるJリート 関連評価
コロナで投資口価格が大きな影響を受けたJリートですが、足元では引き続き、リート規模の拡大が続いています。上場リートは、基本的に半期に1回、保有資産の有価証券報告書を提出しなければならないため、継続的な鑑定評価が必要とされます。世界的に見ても、米国に次ぐ世界第二位のリート市場にまで成長しています。
環境配慮やESG投資 関連評価
先進主要国を中心に、最近、環境配慮目標が発表されておりますが、不動産業界においても、環境に配慮した不動産が重視されています。
不動産は、私たちが日々の生活で排出するCO2でも、大きな割合を占めています。
環境効率の高いビルは、収益の面では、テナントが見つかりやすい、水光熱費等の支出が抑えられる、また投資の面では、ESG投資を積極的に行いたい需要者の増加、といったプラス要因があります。このあたりをどのように鑑定評価に織り込むか、今後の課題と言えます。
(引用:国土交通省開示資料)
空き家 関連評価
日本は超少子高齢化社会に突入しており、空き家は年々増加しています。相続や空き家の有効活用に関連したニーズが増加するものと思料されます。
(引用:国土交通省開示資料)
農地 関連評価
農業における高齢化も進行しています。最近では、企業における農業参入、農地の集約、効率性の高い農業生産も重要視されています。
実は現行の不動産鑑定制度では、農地の定義といった概念的なもののみで、厳密には農地の評価方法は規定がありません。今後の不動産鑑定業界の一つの課題と言えるでしょう。
(引用:国土交通省開示資料)
不動産評価におけるビッグデータ、AIシステムの活用
各産業ではAIの導入、業務効率化、新たなビジネスの誕生が見られますが、不動産評価においても例外ではありません。
最近では、多くの企業が不動産価格査定の自動化ツールを開発しています。
中には、「今後、不動産鑑定は不要では?」と考える方もいらっしゃるかもしれませんが、企業の有価証券に載せるようなもの、公的指標として公的機関が発表するデータのもととなる不動産の鑑定評価を、すべてAIに任せるということは現状は難しいと思います。
マンション等の類型が似通っており、流通量が多いものについては、自動化しやすいことは事実ですが、実際には建築・法律・金融経済情勢・エリアマーケットと様々な要因が複雑に絡み合って価格が形成されること、何より不動産はこの世に一つとして同じものがない個別性の非常に高いものになりますので、そのすべてを機械で行うのは困難であり、しばらくは経験豊富な不動産鑑定士の判断が必要になると思料しています。
(引用:国土交通省開示資料)
海外不動産 関連評価
世界経済がグローバル化するなか、海外進出をする企業も増加しています。
それに伴い、海外所在の不動産を評価する機会も増加しています。
大手不動産鑑定事務所では、既に海外評価チームを組織している事務所も見られます。
不動産鑑定士試験とは?
他の不動産資格との相性
宅建との相性が抜群だと考えています。
宅建士:売買、賃貸借の仲介・媒介
鑑定士:不動産の適正価格を求める
売買・賃貸と鑑定は非常に密接に結びついており、また、総合的な提案ができるようになるため、ビジネスチャンスが一気に広がります。また、価格や取引についての説得力・信頼度があれば、顧客からの信頼獲得につながります。
試験方式
2段階方式
ステップ1:短答式試験
(鑑定理論、行政法規)
ステップ2:論文式試験
(民法、経済学、会計学、鑑定理論(論文・演習)
それぞれ年1回で、短答式が毎年5月、論文式が毎年8月
短答式は一度合格すると、3年間有効
短答式は100点中7割が合格目安(合格率は30%程度)
論文式は600点中6割が合格目安(合格率は10~15%程度)
想定される勉強時間
短答式800~1200時間
論文式1200~2900時間
(※上記はあくまで目安です)
試験データ
勉強にあたっての意識!
大前提として、鑑定試験はズバリ「暗記試験」!
私見ですが、その他の試験よりも暗記力が問われる試験だと考えています。
意識①:合格しやすい予備校を選ぶ!
独学はかなり辛いです。。。
予備校は合格生が多い学校へ!
個人的には、TACが一番おススメです!
新試験制度に移行した2011年から9年間(2011年~2019年度)累計の合格者950名中、TAC不動産鑑定士講座講座生合計は708名、なんと合格者の約75%はTAC受講生!
・各科目に有名な講師陣
・本番と似た問題を出す全国答練
・過去試験を研究しつくした対策
・Web講義も有
但し、私自身はTACが合いましたが、その他の予備校の方が合うという方もいらっしゃると思いますので、まずは不動産鑑定士講座を開講している予備校に資料請求し、各予備校の特徴、コースの種類、費用を比較してみるのが良いと思います。
TAC
LEC
意識②:鑑定理論は基本暗記!
鑑定理論が最重要
不動産鑑定評価基準は基本的に、一言一句レベルで全暗記
これには、わざわざ「一言一句覚える必要はない」という反対意見もあるかもしれません。
もちろん、一言一句暗記せずに、合格した方もいらっしゃるかと思います。
ただ、ここでお話したいのは、合格確率を少しでも上げるということを考えた場合に、自身の意見としては、やはり基本は一言一句暗記だと思います。
Q)なぜか?
A)不動産鑑定士になる=「鑑定評価基準」がその後の業務の全ての基礎
また同科目は、
①短答式試験にもあり、
②論文式も半分の点を占める
※ここは私の単なる推測ですが、もし同点の方がいた場合、鑑定理論の点数で決めると思います。
逆にここが一番ツラいです…泣
ですが、ここを取り切れば合格が一気に近づきます!
これから学習を始める方は以下の本、「要説 不動産鑑定評価基準と価格等調査ガイドライン」を利用されることをおススメします!不動産鑑定士試験のバイブルと言われている、鑑定理論の解説が詳しく記載されているものになります。
意識③:論文レベルの勉強をしつつ短答準備!
短答式の鑑定理論もナメれません。。
私は、論文対策と同時で進めました。
短答対策だけよりも、論文対策も同時で進めた方が、迷った選択肢が出てきたときに、消去法で切りやすいと思ったからです!
意識④:暗記場所の優先順位付け
暗記場所の優先順位付け、これも大事だと思います。
問題集や答練でどの問題の出題頻度が高いのかを分析しましょう。
試験範囲は変わっていないものの、既に相当数の問題が出ているはずです!
問題演習さえしっかりこなせば、本番でも焦ることはないはずです!
意識⑤:足を引っ張る科目をなくす
鑑定理論は得意に、その他の科目で1科目得意科目を作り、残りは足を引っ張らないようにする戦略がおススメです。
鑑定理論を最優先するのは絶対で、あと最低でも1科目得意科目を作る
・民法
・経済学
・会計学
※自身の学部や大学院の分野で近いものがあれば一番です。
個人的には、民法と会計学は暗記で乗り切れてしまうため、比較的取組み易いと感じました。
各科目別おススメの勉強法(当時のテキスト公開)
鑑定理論(短答及び論文)
死ぬ気で暗記です。。。
この鑑定評価基準を、本当に文字通り”肌身離さず”持ち歩き続けました。
特に、移動中の電車等がおススメです。
鑑定理論の音声を自分で読んで録音。
それを空き時間にこまめに聞く。
(いま考えれば、少し気持ち悪いですね。。笑)
ただこれをすることで私自身は、目で見て覚え、耳で聞いて覚え、を繰り返すことができ、最終的に試験本番では、観点評価基準をほぼ全てスラスラと言える、書けるようになっていました。
答練の問題を縮小コピーして、テキストに貼る!
これで出る問題(ゴール)から、暗記重点箇所と、同様の問題が出てきた時の対策ができます。ゴールから逆算して、大事なところを重点的に覚えることで、最小限の時間で最大限の特典を取得することができます!
例えば)限定価格について
例えば)底地について
例えば)区分所有建物について
行政法規(短答のみ)
全ての細かい知識をテキストに書いていきます。
全ての細かな知識が、消去法の迷いを助けます!
過去問を繰り返し、出題重点箇所と問題傾向を把握
最低でも5年分を3回、理想は10年分を3回です。
例)建築基準法の用途地域について
例)譲渡所得について
民法(論文)
理解の科目であるため、納得できるまで講師に質問するようにしましょう。
(逆に暗記科目ではないため、理解さえできてしまえば、高得点が狙えます)
問題を見たら、図を描き、関係者と論点を把握
論点が見えたなら、あとは書くだけです!
例)抵当権設定について
例)時効取得について
経済(論文)
本番で最も予想外の問題が出やすい科目だと感じました。
といいますのも、世の中に起きている経済事象も経済モデルも多岐に渡るからです。
問題作成をする土地鑑定委員会側が最もネタ切れをしていない科目だと思いました。
したがって、私がとった戦略は、奇問は捨てるぐらいの気持ちで
但し、「有名なモデルが出てきたら、絶対に落とさない!」を意識しました。
(需要供給曲線、AS-ADモデルetc…)
会計学(論文)
鑑定理論の次に暗記の科目だと思います。
基本的な勉強方法は鑑定理論と同様です。
答練の問題を縮小コピーしてテキストに貼る、をやっていました。
これで出る問題(ゴール)から、暗記重点箇所と、同様の問題が出てきた時の対策ができます。
鑑定理論(演習)
考えることは、上記に比べてありません。
しかし、焦ってケアレスミス、が最も悔やまれる科目です。
重要なポイントは、パターン慣れ(自用、貸家建付地 etc…)とケアレスミスを極限まで減らすことです。
最低でも過去問は5年分を3周。
序盤での計算ミスはその後の失点に大きく繋がるため、特に序盤でのミスには要注意に要注意しましょう!
以上になります。
本日は以下をお届けしました。役に立てる記事でしたら、幸いです。
- 不動産業界振り返り
- 不動産鑑定士とは?
- 不動産鑑定士試験とは?
- 勉強にあたっての意識!
- 各科目別おススメの勉強法(当時の自身のテキスト写真付)
不動産鑑定士試験受験者の皆さまの合格を祈念しております!